家路の車窓

2004/01月号

2004/01/05月曜日

 

「ニュー・シネマ・パラダイス」

今月は僕の大好きな映画について書きたいと思います.僕のホームページに“私のベスト”と題して,お気に入りの映画ベスト30を発表しています.これも毎月更新しているのですが,実際には,それほど大きく変わっていません.1988年以降16年間,その第1位の座にある映画がタイトルの“ニュー・シネマ・パラダイス”です.この映画は,イタリア・シチリア島を舞台にしたイタリア映画で,ジュゼッペ・トルナトーレ監督の作品です.映画の雰囲気をかもし出す音楽はエンニオ・モリコーネの作です.

映画は,窓に置かれた花瓶にカーテンがなびくという叙情的な風景から始まり,最後は,当時規制されていた多くの名作のキスシーンをつなぎ合わせた情熱的なフィルムを主人公が試写室で観ながら涙を流すシーンで終わる映画です.どんな映画かは観てのお楽しみです.ぜひぜひ,観ていただきたいと思います.僕は,この映画のビデオもDVDも持っていますが,その理由はこの映画を愛し続けようという気持ちからです.

この映画は,映画が大好きな一人の少年の成長を淡々と描いた映画です.この少年と当時シチリアに一軒しかなかった映画館の映写技師の交流を中心に,思春期,恋愛,戦争,将来への不安,追われるような旅立ち,そして望郷・ノスタルジー,人生への歓喜がすべて盛り込まれた映画です.最高です.

先にも書きましたが,最後はキスシーンをつなぎ合わせた情熱的なフィルム(白黒なのがまた良い)が3分程度流れ続けるのですが,この場面では,涙が止まりません.変ですよね.ドキドキするキスシーンを観ながら感傷的に泣けるんですよ.このキスシーンをつなぎ合わせたフィルムは,主人公が少年の頃に憧れた“大人への成長”のマイルストーンなのです.誰しも,このようなものがあるはずです.いつから大人になったのか,自分自身皆目わからないのですが(僕の知り合いは,おまえは大人になっていない!と言われるかもしれませんが),成長において何かきっかけになったものを,誰もが持っていると思うのです.それは,きっと純粋なものなのです.

しかし実際に大人になり,純粋な何かを忘れてしまっているのです.主人公もそうでした.主人公は,あるきっかけから,その“純粋なる思い”であるキスシーンのフィルムを観て,少年の頃の純粋さに触れノスタルジックな気持ちを感じて泣くのだと思います.実際には,その純粋な気持ちには戻れないのですが,それを懐かしむのです.まさに人生の機微をテーマとした映画です.いや〜,すばらしい映画ですね(ちょっと水野晴郎風ですが).是非,ご覧いただければと思います.

 

2004/01/05月曜日

「“ニュー・シネマ・パラダイス”と“海の上のピアニスト”の比較研究」

“ニュー・シネマ・パラダイス”のジュゼッペ・トルナトーレ監督の作品では,2000年に公開された“海の上のピアニスト”の方をご存知の方も多いのではないでしょうか.僕は,大好きな監督の作品なので,待ち焦がれており,この映画が公開されると直ちに上野に観にいきました.しかし実は,“海の上のピアニスト”は,「私のベスト」には入っていないのです.この2本の映画はいずれも,人生の機微をテーマとした映画であると思うのですが,非常に対照的な作品であります.今回,両者を比較し,それぞれの映画の意味するところを考察してみたいと思います.

“ニュー・シネマ・パラダイス”では,シチリア島にとどまろうとする主人公に対して,父親にも相当する映写技師は「おまえは,このシチリアに留まるべきではない.外に出て成功を勝ち取るんだ.故郷に戻ってきてはいけない.」と言いました.“トト”という名の主人公は,追われるように故郷を旅立ち,ガムシャラに働き映画のプロデューサーとして成功を勝ち取ります.しかし,成功までの道のりにおいて人間的な部分を失っていくのです.成功したにもかかわらず充足感を持つことのできない主人公の元に,父親にも相当する映写技師の訃報が届きます.これをきっかけに,主人公の故郷における自分探しが始まります.この映画は,いわゆる“攻めの人生”における機微をテーマをしていると思います.

一方,“海の上のピアニスト”は,赤ん坊の頃にヨーロッパとアメリカを往復する豪華客船に捨てられた主人公が,客船の機関士に拾われるところから始まります.この機関士が父親代わりで,“ニュー・シネマ・パラダイス”の映写技師に相当します.しかし,この機関士は主人公に対して「この船の上がおまえの生活する場所だ.決して船を降りるな」と言います.すなわち,この豪華客船が“ニュー・・・・”のシチリア島に相当するんですね.主人公は“1900(ナインティーン・ハンドレッド)”と名づけられ,一生涯をこの船の中で過ごします.彼は類まれなピアノの才能を持っており,地上の世界でも知られた伝説的な存在になります.船の中で得た友人が,船を降り外の世界に旅立つことを勧めますが,彼は降りることができません.“トト”とは正反対の人生を歩むのです.すなわち,この映画では,いわゆる“守りの人生”における機微をテーマにしているものと思います.

“攻めの人生”を志している僕としては,“ニュー・シネマ・パラダイス”の主人公“トト”に共感を覚え,“海の上のピアニスト”の“1900”は何考えてんだ?という気持ちを持っています.特に後者の映画を観終えた直後は,失望の一言でした.

しかしよく考えてみると,人間はいつも攻めているばかりではありませんね.きっと僕もいつか“海の上のピアニスト”の主人公の人生の機微が理解できる年代が来ると思います.皆さん,“私のベスト”にこの映画がいつ登場するか,楽しみにしていてください.

最後に.このような様々な人生を描けるジュゼッペ・トルナトーレ監督はすばらしいですね.

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