家路の車窓

2005/06月号

2005/06/06月曜日

 

「少年野球」

うちの長男坊主が,地元の子供会の野球チームに入部して,休日の度に,練習や試合に行くようになりました.それ以前は,公園で一緒に遊ぶことが多かったのですが,すっかり野球が好きになったようで,最近では,長男の野球の練習を見に行くのが僕の休日の過ごし方になりつつあります.

この野球チームは,昨年は小学6年生主体のチームだったようで強かったそうです.しかし,その主力選手がごそっと卒業してしまい,今年はまだ1勝もしていません.しかし,もともと強豪チームだったのですから,その練習は結構しっかりしたものになっています.チームには25名程度の子供たちが所属しているのに対して10名程度のコーチがいるというのですから.コーチの熱心さを感じますね.

なかなか良い指導もされています.「ランナーが1塁にいるんだから,ボールを取ったらどこになげるんだぁ?」とか「ツーアウトなんだから,二塁ランナーは,いっきにホームを狙うように走らなければダメだ.」とか,状況を頭に入れて,次にどのような行動をしなければならないのかを指導してくれています.僕は少年野球を経験したことがないので知りませんでしたが,かなり高度な思考を小学生の頃から指導しています.これはとても素晴らしいことですね.僕はテニスをやっているのですが,テニスも同様です.テニスでは,相手コートに空きスペースを作らせ,そこを狙うことで得点していく.相手に空きスペースを作らせるための戦略を練ることがとても大切です.このように状況を頭に入れて,どのように対応するかを瞬時に考え,直ちに行動することがスポーツにおいてはとても重要です.特にゲーム性の高いスポーツの場合は.

でも,これは研究活動も同じです.社会の状況を頭に入れて,どのような研究を行うべきかを考える.そして具体的な成果を挙げるため,次に何をすべきかを考え,そのための戦略を構築し具体的な行動に移す.与えられた問題だけを,早くかつ模範解答に近い解答を導く練習ばかりしていては,このような思考はできません.小学校から大学3年までは,問題を与えて解くことを中心とした教育になっていると思いますが,それだけでは不十分です.スポーツを通じて,このような思考を養うことはとても大切であると認識を新たにしました.

 

2005/06/06月曜日

「勝たせてあげたい」

またまた,長男坊主の所属している野球チームでのお話です.先日,合宿が行われたのですが,合宿でのコーチ陣との飲み会で,あるコーチの言った言葉がタイトルの「勝たせてあげたい」でした.教育者の僕にとって,「教育」の本質を認識させられ“感動”した言葉でした.この言葉が出て来た経緯は次の通りです.

合宿初日の土曜日,まずは遠征先の地元野球チームとの練習試合がありました.2試合行われました.8連敗中で4月からの新チームになって1勝もしていないチームにとって,「なんとか1勝を」という気持ちで,毎回の試合をしています.ところが,投手をまかされて日の浅いピッチャーは頻繁に暴投し,捕手を指名されて間もないキャッチャーは幾度と無くパスボールをしてしまいます.内野手,外野手もボールを捕球しても,どこに投げたらよいのか判断に迷ってしまい,その間にランナーに走られてしまう始末です.「こんなチームが強くなるのかしら」というのが,子供を預けている親としての率直な気持ちでした.

そして,その日は合宿の宿泊先で一泊しました.子供たちは,半分,修学旅行気分で,寝る前はワイワイ・ガヤガヤ騒いで枕投げなんかしていましたが,昼間の練習試合やトレーニングで疲れているので,まもなく寝静まりました.

その後は,コーチたちの飲み会でした.コーチたちも疲れているので,それ程飲むわけではありませんが,いろいろお話させていただきました.そのときの話題は,もちろん野球チームのことです.今回の練習試合での敗戦を加えて,ついに10連敗でチーム事情も良くありません.しかし,コーチ陣はそろって,これから始まる市の子供会のリーグ戦や,その後の大会で優勝することを目指していました.あんなにもヘタクソなチームであってもです.「いつかは勝てる」とコーチ全員が信じていました.そのときに一人のコーチが発言した言葉が,このタイトルの「子供たちに勝たせてやりたい」というものでした.これを受けて別のコーチが「1勝すれば,みんなの自信になるんだけどなぁ」と言いました.「初勝利は泣いちゃうだろうな,みんな.オレも泣くよ,きっと.」というコーチもいました.

しかし飲み会の席でこの言葉を聞いたときは,特に何も感じませんでした.しかし,翌日の練習を見たとき,この言葉が“感動の言葉”に変わりました.

前日の試合の敗戦は,主にキャッチャーのパスボールの多さが原因でした.そして,翌日の練習では,キャッチャー2名の選手を壁際に座らせ,ショートバウンドのボールを何度も投げつけるコーチがいました.「なにやっているんだぁ」,「ボールを怖がるな」と何度も言い聞かせているコーチは,前日の飲み会で「子供たちに勝たせてやりたい」と発言した人でした.いつもより厳しい姿勢で子供たちの指導をしているようにも見えました.状況を知らない人であれば,なんて厳しいコーチだろうと思うでしょう.

僕は,このシーンを見たとき,前日に聞いた「子供たちに勝たせてやりたい」という言葉の持つ意味や発言したコーチの思いが伝わってきて感動にも似た気持ちを持ちました.子供である選手は,確かにショートバウンドで跳ね返ってくるボールを怖いと思うだろうし,そんなボールを何度も投げつけてくるコーチを憎いと思うこともあると思います.しかし,そのコーチは「子供たちに勝たせてやりたい」,「子供たちに自信を持ってもらいたい」という気持ちで,あえて厳しいボールを投げつけていると思うと,前日のコーチたちが交わしていた言葉から,“子供たちのために”という気持ちがひしひしと感じられ始めました.そんなコーチの本当の気持ちを子供たちに聞かせることも無く,「心を鬼にして」指導していたのです.そんな場面を見て,僕もこのチームは「いつか勝てる.勝てないわけがない.」と思うようになりました.初勝利のときは,きっと選手もコーチも,嬉しくて泣いてしまうだろうなと思いました.そして選手とコーチの間には強い信頼感が生まれてくるのだと思います.僕も,初勝利を楽しみに,毎回試合を見に行こうと思います.

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