家路の車窓

2005/07月号

2005/07/11月曜日

 

「本当に分かっている??」

最近,山本義隆氏の「磁力と重力の発見」を読み始めました.山本氏は,僕が一浪で通っていた予備校の物理の先生でした.いろいろな意味で有名な方であるし,先の図書は大沸次郎賞を受賞したので,ご存知の方も多いと思います.この本の中身については,まだ読み始めたところなので,いつかまた,この「家路の車窓」で詳しく取り上げることとして,この本を読み始めて直感的に思ったことと,最近講義や講演などで感じたことを考え合わせて,今回のタイトルで書いてみます.

僕もそうですが,最近の小学生でもよく勉強する機会があるので,磁石がくっつき合うことはよく知っています.もっと詳しく書けば,N極とS極はくっつき,N極とN極,S極とS極は,反発し合います.子供向けの実験教材もあり,加えて分かりやすく解説した図書教材もあるので,僕も含め多くの人が分かっている事実です.うん?本当に分かっているのでしょうか?N極とS極はくっつき,N極とN極,S極とS極は反発し合うことは知っていて予想もできます.別に取り立てて不思議にも思いません.でも本当に,この現象を正確に分かっているとは僕には思えません.

先の「磁力と重力の発見」の第一巻では,磁力という概念が発見されていない時代に,物と物が接触していないのに,引き付けあったり反発しあったりすることは,不思議で不思議でしかたなったというところから始まります.本当にそうであっただろうと思います.この不思議でたまらない気持ちから,何人かの研究者が,この現象を“徹底的”に考えたことと思います.そして,多くの考え違いなどもしながら,現在の磁力という概念にたどり着いたのだと思います.

でも最近の教科書では,このような概念にたどり着く試行錯誤の部分を書くことは無く,現象を分かりやすく,すっきりと説明がなされていて,また最近の子供たちはよく勉強するので,現象が分かってしまうのです.うん?本当に分かっているのかな?分かった気になっちゃうのではないでしょうか?

僕もそれなりに難しい理論的概念のようなものを構築していますが,僕がこのような概念にたどり着くまでには,多くの実験や試行錯誤を通じてたどり着いたと思っています.また現在到達している概念も,本当に,その現象を正確に説明しているかどうかは,いつも疑問に思っていますし,正確性を欠く部分も,既にいくつか気付いています.なぜなら,非常に多くの試行錯誤をしてきましたから.でも,これを講演・講義するとき,できるだけ分かりやすく,すっきりと話そうと考えます.「いや〜,難しいなぁ」と思われたくないですからね.でも,分かりやすく講義内容を作るためには,自分が思考した項目を,思考した順番には話せないんですよね.なんたって講義する自分は,試行錯誤して来ていたわけですから,そのまま話してしまうと,聴講している人も試行錯誤することになりますから.分かりやすくするために,試行錯誤の過程で一度は考えた間違った概念は排除し,実際に自分が気づいた順番ではなく,分かりやすくするために秩序だてた講義内容に仕立て直します.

でも,聴講者にとって分かりやすくなったとは思いますが,本当に分かってもらえているのでしょうか.分かったような気にさせているのではないでしょうか.本当に分かってもらうためには,聴講者自身に一度は試行錯誤してもらわなければ,本当には分かってもらえないのではないでしょうか.

皆さん,「なんだ,知ってるよ,そんなこと.本で読んだよ」とか「別に不思議じゃないよ,この間,テレビでやっていたよ」とか,「だいたい予測できたけどね」なんて,言っていませんか.自然現象は,本で読んだから,テレビで解説されていたから,理解できるものではありません.自分で実験してみなければ,本当には分からないと思います.「だいたい予測・・・」,予測には,“だいたい”は禁物です.正確に予測することを目指して,自然現象を理解することが大切であり,そうしなければ自然現象の“本当の姿”は見ることはできません.“現象を理解する”ということは,そんなに甘くありません.

 

2005/07/11月曜日

「地下街は好き?それとも嫌い??」

種々の学会や企業の委員会で,東京に出張することが数多くあります.皆さんもご存知のように,東京の地下はとても高度化されていて,地下街を通じて,たいていのところに到着することが可能です.僕は,東京地下鉄(東京メトロ)の地下の通路を利用して,委員会などが開催される企業の本社ビルに向かいます.その理由は,地下の出口の番号表示(3番出口とか1a番出口などと記述されているものです)をたどりながら行けば,確実に目的地であるビルに到着できるからです.僕にとって,このような手順で目的地にたどり着くことが,とても容易に感じることができ,東京の地下街はとても便利であると思っています.

しかし,なかには「東京の地下街は嫌いだ」とおっしゃる方も多いと思います.嫌いである理由を聞くと,「自分がどこにいるのか,分からないから」とおっしゃる方が多いと思います.「地下街は便利で好きだ」という僕にとっても,地下街にいると,自分がどこにいるのか分かりません.しかし,地下街では目的地に到着することしか考えていませんから,別に,今自分がどこにいるのか知る必要がないと思っています.ここに面白い点があると思います.すなわち,自分の認識を何を持って判断しているかが人によって異なるということです.今現在の自分の位置を常に把握しておきたいと考える人と,将来,自分がどこに位置するかを想定して常に行動している人との差異であると思います.地下が嫌いという人は前者であり,後者は地下街が比較的好きだという人が多いのではないでしょうか.

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