家路の車窓

2005/10月号

2005/10/03月曜日

 

「旧交を温める・その1」

教員になってみると,自分が学生時代に指導を受けた先生と出会うことが多いものです.学生時代は,教員と先生という関係であるのに,現在は,教員という同業者として,お話させていただくわけですが,これが何とも不思議な感じがします.18歳の時に出会った文字通り“先生”に,現在は,“○○先生”なんて呼ばれてしまうのは,なんとなくこそばゆい思いがします.

その先生は,僕が18歳で大学に入学したときの学年担任です.それから20年以上も経って,一緒にお酒も飲んで.自分の恩師に対して旧交を温めるなんて言ったら失礼かもしれませんが,本当に懐かしく楽しいひと時でした.話していると,僕が大学入学直後に,学年担任として,その先生が教室にいらっしゃって,「大学では,早く正解にたどり着くのではなく,むしろ遠回りしても良いから,その正解までにたどり着くプロセスを良く考えてほしい」ということをおっしゃったことを思い出しました.これは僕が18歳の頃ですから,それはそれは相当昔のことなのに良く憶えていたのです.そして,その先生に「そういえば,僕が入学直後に,先生はこんなことをお話しましたよね」と話すと,「いや〜,良く憶えているよ」と返ってきました.そう,その先生も当時のことを,良く憶えていらっしゃいました.なんか,とても嬉しかったです.

今は,僕も教員の側に立っています.この先生のように,20年後に教え子と再会したときに「先生,あのときは,こんなことを言ったんですよ」なんて,みんなの記憶に残るような気の利いたことが言えるようになりたいものです.

 

2005/10/03月曜日

 

「旧交を温める・その2」

つい先月,僕の関連する学会の全国大会がありました.この学会は4万から5万人の会員がいる大きな学会ですから,その全国大会となると年に一回の大きなお祭りのようなイベントであります.日本国中の大学の教員や,国,地方自治体,企業の研究者・技術者の方々が参加されるので,楽しく情報交換する機会と思っていて,毎年楽しみにしており,欠かさず参加しています.研究を通じて知り合いになった方々との交流は,学問的好奇心が刺激されます.

しかし今回は,僕の母校が会場なので,大会運営のスタッフとしての役割もありました.はじめは,母校の恩師・先生や先輩から,運営スタッフとしての協力を求められましたので,OBとしては受けざるを得ないという気持ちでおりました.淡々と任務をこなさなければならないのは事実でした.ところが,母校であるということから,大学OBがたくさん集まり,その中には,僕の大学時代の同級生も何人か含まれていました.とにかく懐かしい.

それぞれ皆,良い年齢の重ね方をしていて,しかし,その面影には20年前の大学の同窓で学んでいた頃の表情・雰囲気があって,本当に懐かしい.お互い成熟した技術者として飲み屋で盃を交わし,それぞれの持論の技術論を語り合っているのだけれど,大学時代のコンパの席にいるような錯覚を覚えました.「俺たちが,こんな技術論をお互い語るようになるとはなぁ.」と話すと「そうだな,でも間違いなく大学を出て5年ぐらいまでは,結婚も意識しているので,彼女の話しかしなかったな.」と同期が返し笑い合う.そう,年代によって,その関心事は変化し,話題も変わっていくのです.その意味で,僕の同期たちは,社会的にとても重要な役割を務めていると思いました.研究所勤務と大学教員への転職をしたこの20年の歳月は,自分にとって「あっ」という間のような気がしていて,学生諸君に「20年なんて,あっという間だよ」とよく言っていました.しかし,今回温めた旧交を通じて,自分も含めた大学同期の技術者として,また人間としての物凄い成長ぶりを客観的に見てみると,その20年の歳月の重みを感じました.ただ何事もなく過ぎ去った20年では決してなく,技術者として,人間として大きく成長させてくれた20年だと思うと,その重みは物凄いものと感じてきました.今回は旧交を温める意義を強く感じた全国大会となりました.

ニューへ戻る