家路の車窓

2007/03月号

2007/03/08木曜日

 

「笑いの質の違いを痛感」

僕はお笑い芸人ではないのですが,自分の講演のときに,この笑いを少し意識しています.皆さんも経験があると思いますが,60分とか90分とかの講演を聴いていて,眠くなってしまうことがありますよね.睡魔というのは,緊張の裏返しだそうで,緊張感を持って講演聴講に臨むと眠くなってしまうそうです.ですので僕の場合,リラックスして質問でもしてやろうかという感じで聴講します.しかし一般的には,なかなかできないことかもしれません.僕の場合は,聴講というよりも“講演をする側”の方が多いので,どのようにしたら聴衆にリラックスして聴いてもらえるかを意識して講演を行います.

そこであれこれ考えて,聴衆を自分の方に向かわせ話を聴かせるプロの落語家やお笑いの人が,どのようにお話を組み立てているかを考えてみました.落語家は,身近な世間話や世相をお話して本題に誘導していきます.お笑い芸人も“つかみ”と称して,まずはお客さんの意識を演者に向けさせますね.それと同じようなことを,講演の前に“自己紹介”と称して行います.自分では面白おかしく話しているつもりです.今までの経験では,聴衆の反応はかなり良く,こちらも気持ちよく講演に入れました.僕自身,関東地方の大学で教鞭を取っていることもあり,関東地方での講演が多かったのですが,結構“ウケている”と感じていました(勝手に感じていたのかもしれませんが).北は,北海道,南は九州まで,はたまた韓国やベトナム,マレーシアなどでも,同じようにやって“うまくいっている”と感じていました.

しかしつい先日,関西の大学で講演したときに,「ウケない・・・」と感じながら講演をしました.お客さん・・・いえいえ,聴講者は「こんな所で笑って良いものかどうか」と戸惑っている感じでした.その後,僕を招待してくれたその大学の先生と懇親する場があり,このことが話題となりました.「ウケなくて,慌てたでしょう」と言われました.正直,戸惑いました.「関西と関東では笑いの質が違うのです」と言われ,“そうか,それが原因か”と思いました.テレビなどでお笑い芸人が「関西のお笑いと関東のお笑いは違う」と言っていましたが,まさか僕がそれを痛感することになるとは思ってもみませんでした.今度は,関西方面のお笑い番組を見て,笑いの質の違いを勉強してみようと思います.

 

2007/03/08木曜日

「土木工学における最も重要な技術開発は,人材開発(育成)」

この「家路の車窓」を読んでいらっしゃる方は既にご存知の方も多いでしょうが,実は,僕は土木技術者です.今は,土木工学に関する教育の現場に従事しています.ちょっと前には,土木工学に関する研究・開発・技術指導などをしてきました.トンネル建設やダム建設,処分場建設の現場によく行っていました.教育の現場に移ってからは,現場に行く機会は減っちゃうかなと思っていましたが,以前よりも増して現場に足を運ぶ機会が多くなりました.海外の現場にも行っています.このような実際の工事現場に行って思うことは,「技術者の育成が一番大切だ」と思うことです.

分野が違うので確かなことはいえませんが,自分の身体より小さい製品を造る工学分野では,効率的な製造過程や革新的な技術と,それを考案できる数名の天才技術者を育てることが大切のように思います.ここにも人材の育成の大切さがあると思いますが,自分の身体より,また製作する機械より大きい構造物を建設する土木工学では,“数名の天才技術者”では不十分のように思います.

土木技術は,神様が創った自然の中で使われる技術ですので,必ずしも“効率的なものが良い”ということにはなりません.必ずしも目的を効率的に達成できる技術ではないからこそ,別のものを造る技術にもなれば,環境の修復や文化遺産の維持にも応用できる技術になるのだと思います.医学の世界でいえば,対症療法とか漢方薬のような技術になるものと思います.土木技術は,すべてがすぐ直せるというわけではなく,しかし,じわじわと体力が付いていくようなもののように思います.

自分たちの身体より大きい構造物を造るということは,“誰かが造る”のではなく,“チームが造る”ものです.それも,同じレベルの専門知識を共有する仲間ではなく,世代も専門知識も違う人たちで構成されるチームで造るものです.しかも,この世代も専門知識も異なる人たちが,自分の都合ばかりを主張するのではなく,目的とするプロジェクトの推進を見失うことなく,自分の果たすべき役割を自らが見出し遂行するチームでなければ,成功しません.このように考えてみると土木技術における教育は“数名の天才”を育成することではなく,“多様な人材”を育成することが大切であると思います.

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