家路の車窓
2013/01月号
2013/01/07月曜日
「新春の巻頭言:科学的議論って?」
昨年末のいくつかの課題に対して,「科学的議論と根拠に基づいて判断する」という文言が,新聞やテレビで流れました.私も技術者であり,学術の世界に身を置いているので,“科学的”ということを少しは認識しているつもりです.しかし,昨年末に行われてきた議論は,どうしても科学的であるとは思えないものがいくつかありました.特に私は土木工学の内,自然の一部である地盤を対象としているので,その自然の一部である地盤と対話するかのような気持ちで関わっています.いわゆる自然科学の分野ですね.自然科学とは,広辞苑第6版によると,「 (natural sciences)自然界に生ずる諸現象を取り扱い,その法則性を明らかにする学問」と記されています.この自然現象の法則性を明らかにする上では,数学が必要不可欠と思います.いままでの車窓でも,数学は自然現象と対話する唯一の言語であると言ってきたと思います.自然現象は,日本語も英語も話してくれません.数学を使って,自然現象を解読する以外に,対話することができません.すなわち,自然現象に関する科学的な議論や根拠とは,数学を用いた内容でなければならないと思います.しかし,「○○である可能性は否定できない」とか「絶対に△△ではないことを示しなさい」という議論が,昨年末なされましたが,これはもはや,科学的とは言い難いと思います.数学を使うということは,定量的な確率を示して,「何%の確率で,○○の可能性は否定できない」というような議論にならなければ,科学的とは言い難いと思います.よく技術に対してマスメディアは「安全神話が崩壊」など報じますが,技術者の皆さんは分かると思いますが,「絶対に安全」などとは,技術者は言っていません.
以前,2011.3.11震災前に,事業仕分けで「200年に一度の洪水に対して耐えられる堤防を構築する」という事業内容に,「無駄遣い」と言われました.そして,先の津波は,800年に一度,その後,600年に一度というように修正されましたが,定量的な確率を示して,議論されています.これは科学的と言えると思います.先の津波被害によって,200年に一度の洪水など自然現象に対する防災が無駄ではないことも分かったと思いますが,いずれにしても,確率を示しているから,科学的に議論ができるのです.
しかし,依然として,新聞やマスコミでは「絶対安全」など,数学を用いず,科学的ではない論説が多いのが,とても嘆かわしい.このままでは,日本はダメになってしまうのではないかと思うほどです.今年も,数学を用いた自然現象の理解,定量的評価の重要性を教授していきたいと思います.